トニック・ディミニッシュ

提供:コード辞典

狭義には Idim7 のことであるが、一般にその転回形であり、すべてのコード・トーンを共有する ♯IIdim7♭IIIdim7)、♯IVdim7♭Vdim7)、VIdim7 もトニック・ディミニッシュとみなされる。 なぜなら、これらの和声的機能に共通点が多いからである。

トニック・ディミニッシュの主な代理コードには VII7 がある。 このほか、II7 など、トニック・ディミニッシュと関係が深いコードもいくつかある。

トニック・ディミニッシュが関係する主なコード進行

トニック・ディミニッシュの多くはメジャー・キーで使われる。 メジャー・キーにおけるトニック・ディミニッシュが関係する主要なコード進行には次のようなものがある。

  1. Imaj7-Idim7-Imaj7
  2. Imaj7-Idim7-IIm7Imaj7-♭IIIdim7-IIm7
  3. IIm7-♯IIdim7-IIm7
  4. IIm7-♯IIdim7-IIIm7I/III
  5. II7-♯IIdim7-IIIm7I/III
  6. IIIm7I/III)-♭IIIdim7-IIm7
  7. IIIm7I/III)-♭IIIdim7-IIIm7I/III
  8. IVmaj7-♯IVdim7-I/V
  9. IVmaj7-♯IVdim7-V7

トニック・ディミニッシュの前後の和声的機能に注目すると、これらは次のように類型化できる(それぞれ代理コードも含む)。

また、トニック・ディミニッシュは、同主調平行調であっても共通である。 よって、トニック・ディミニッシュをピボットとした転調が行われることがある(例えば、Donna Lee(Miles Davis)の27--29小節目)。

トニック・ディミニッシュのスケール

転調しない場合、あるいは同主調または平行調のようなトニック・ディミニッシュを共有するキーに転調する場合、トニック・ディミニッシュに対応するスケールはほぼ例外なくディミニッシュ・スケールとなる。

また、メジャー・キーの場合、コードがトニック・ディミニッシュのときのメロディは、階名「ラ・シ・ド・レ」のいずれかであることが多い。 これは、メジャー・スケールとディミニッシュ・スケールの共通音が、階名「ファ」と「ラ・シ・ド・レ」であるからであろう。

トニック・ディミニッシュは、ドミナント・ペダル・ポイントで使われることがある(Idim7/V)。 このとき、ベース音はディミニッシュ・スケール上に存在しないが、トニック・ディミニッシュであることに変わりはないので、対応するスケールはルート(ベース音ではない)から始まるディミニッシュ・スケールである。

トニック・ディミニッシュの代理コード

トニック・ディミニッシュの代理コードとしてもっともよく知られているのは VII7 である。 トニック・ディミニッシュはトニック・メジャー代理の IIIm7 にしばしば進行するが、VII7 がトニック・ディミニッシュ代理として IIIm7に進行するとき、セカンダリ・ドミナントとみなすほうが自然である場合もあり、またピボットとなってほかのキーに転調しているケースもある。 この見極めは難しいけれども、その見極めや解釈がさほど重要ではない場合も少なくない。

なお VII7 がトニック・ディミニッシュの代理機能を持つとき、厳密にはこのコードがドミナント機能を持っているとはいえないので、トライトーン代理を想定することはできない。 このことが、VII7 がトニック・ディミニッシュ代理か、セカンダリ・ドミナントかを見極める手がかりのひとつになるだろう。

VII7 がトニック・ディミニッシュ代理のとき、対応するスケールは半音-全音ディミニッシュ・スケールである。 このスケールは、トニック・ディミニッシュに対応するディミニッシュ・スケールと共通している。

トニック・ディミニッシュ代理の VII7 はドミナント機能を持たないが、♯IVm7♯IVm7(♭5)関係コードとして先行することがある。 このとき、♯IVm7 に対応するスケールはドリアンである。 また、♯IVm7(♭5) に対応するスケールは、ロクリアンまたはロクリアン♯2であるが、後者のほうが好まれる傾向がある。 なぜなら、ロクリアン♯2のほうがトニック・ディミニッシュに対応するディミニッシュ・スケールと共通音がより多いからだと考えられる。

トニック・ディミニッシュを置き換える♭IIIm7-♭VI7

トニック・ディミニッシュ ♭IIIdim7♭IIIm7♭IIIm7-♭VI7 が置き換えることがあり、これはビバップ以降の重要なマナーのひとつといえる。

例えば、All The Things You Are(Jerome Kern)の32小節目は、♭IIIdim7で演奏されることも少なくないが、実際に録音を聴くと ♭IIIm7-♭VI7 で演奏される録音が非常に多い。

この部分のストレート・メロディは ♭IIIm7-♭VI7と衝突するにも関わらず、メロディをフェイクして(変更して)まで ♭IIIm7-♭VI7 を採用している録音もある(例えば ”Jazz At Massey Hall”、1953年)。

また、テーマでは ♭IIIdim7 を採用しつつも、ソロになると ♭IIIm7-♭VI7 に置き換えて演奏するケースもある。

このように、トニック・ディミニッシュ ♭IIIdim7 は、♭IIIm7♭IIIm7-♭VI7 と非常に関連が深い。