「トニック・ディミニッシュ」の版間の差分
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トニック・ディミニッシュの前後の和声的機能に注目すると、これらは次のように類型化できる(それぞれ代理コードも含む)。 | |||
* [[トニック・メジャー]]からトニック・メジャーへ---1. 5. | |||
* トニック・メジャーから[[サブドミナント・メジャー]]へ---2. 6. | |||
* サブドミナント・メジャーからトニック・メジャーへ---3. 7. | |||
* サブドミナント・メジャーから[[ドミナント]]へ---8. | |||
* [[ダブルドミナント]]からトニックへ---4. | |||
また、トニック・ディミニッシュは、[[同主調]]や[[平行調]]であっても共通である。 | |||
よって、トニック・ディミニッシュを[[ピボット]]とした[[転調]]が行われることがある(例えば、''Donna Lee''(Miles Davis)の27--29小節目)。 | |||
==トニック・ディミニッシュのスケール== | |||
[[転調]]しない場合、あるいは同主調または平行調のようなトニック・ディミニッシュを共有する[[キー]]に転調する場合、トニック・ディミニッシュに対応する[[スケール]]はほぼ例外なく[[ディミニッシュ・スケール]]となる。 | |||
また、メジャー・キーの場合、[[コード]]がトニック・ディミニッシュのときの[[メロディ]]は、[[階名]]「ラ・シ・ド・レ」のいずれかであることが多い。 | |||
これは、[[メジャー・スケール]]とディミニッシュ・スケールの共通音が、階名「ファ」と「ラ・シ・ド・レ」であるからであろう。 | |||
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トニック・ディミニッシュは、ドミナント・[[ペダル・ポイント]]で使われることがある('''[[Idim7/V]]''')。 | |||
このとき、[[ベース音]]はディミニッシュ・スケール上に存在しないが、トニック・ディミニッシュであることに変わりはないので、対応するスケールは[[ルート]](ベース音ではない)から始まるディミニッシュ・スケールである。 | |||
== トニック・ディミニッシュの代理コード == | |||
トニック・ディミニッシュの代理コードとしてもっともよく知られているのは '''VII7''' である。 | |||
トニック・ディミニッシュはトニック・メジャー代理の '''IIIm7''' にしばしば進行するが、'''VII7''' がトニック・ディミニッシュ代理として '''IIIm7'''に進行するとき、[[セカンダリ・ドミナント]]とみなすほうが自然である場合もあり、また[[ピボット]]となってほかのキーに転調しているケースもある。 | |||
この見極めは難しいけれども、その見極めや解釈がさほど重要ではない場合も少なくない。 | |||
なお '''VII7''' がトニック・ディミニッシュの代理機能を持つとき、厳密にはこのコードが[[ドミナント機能]]を持っているとはいえないので、[[トライトーン代理]]を想定することはできない。 | |||
このことが、'''VII7''' がトニック・ディミニッシュ代理か、セカンダリ・ドミナントかを見極める手がかりのひとつになるだろう。 | |||
'''VII7''' がトニック・ディミニッシュ代理のとき、対応するスケールは[[半音-全音ディミニッシュ・スケール]]である。 | |||
このスケールは、トニック・ディミニッシュに対応するディミニッシュ・スケールと共通している。 | |||
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トニック・ディミニッシュ代理の '''VII7''' はドミナント機能を持たないが、'''[[♯IVm7]]''' や | |||
'''[[♯IVm7(♭5)|♯IVm7<sup>(♭5)</sup>]]''' が[[関係コード]]として先行することがある。 | |||
このとき、'''♯IVm7''' に対応するスケールは[[ドリアン]]である。 | |||
また、'''♯IVm7<sup>(♭5)</sup>''' に対応するスケールは、[[ロクリアン]]または[[ロクリアン♯2]]であるが、後者のほうが好まれる傾向がある。 | |||
なぜなら、ロクリアン♯2のほうがトニック・ディミニッシュに対応するディミニッシュ・スケールと共通音がより多いからだと考えられる。 | |||
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== トニック・ディミニッシュを置き換える♭IIIm7-♭VI7 == | |||
トニック・ディミニッシュ '''♭IIIdim7''' を '''[[♭IIIm7]]''' や '''[[♭IIIm7-♭VI7]]''' が置き換えることがあり、これは[[ビバップ]]以降の重要なマナーのひとつといえる。 | |||
例えば、''All The Things You Are''(Jerome Kern)の32小節目は、'''♭IIIdim7'''で演奏されることも少なくないが、実際に録音を聴くと '''♭IIIm7'''-'''♭VI7''' で演奏される録音が非常に多い。 | |||
この部分のストレート・メロディは '''♭IIIm7'''-'''♭VI7'''と衝突するにも関わらず、メロディをフェイクして(変更して)まで '''♭IIIm7'''-'''♭VI7''' を採用している録音もある(例えば ”Jazz At Massey Hall”、1953年)。 | |||
また、テーマでは '''♭IIIdim7''' を採用しつつも、ソロになると '''♭IIIm7'''-'''♭VI7''' に置き換えて演奏するケースもある。 | |||
このように、トニック・ディミニッシュ '''♭IIIdim7''' は、'''[[♭IIIm7]]''' や '''[[♭IIIm7-♭VI7]]''' と非常に関連が深い。 | |||
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2024年9月20日 (金) 07:47時点における版
狭義には Idim7 のことであるが、一般にその転回形であり、すべてのコード・トーンを共有する ♯IIdim7(♭IIIdim7)、♯IVdim7(♭Vdim7)、VIdim7 もトニック・ディミニッシュとみなされる。 なぜなら、これらの和声的機能に共通点が多いからである。
トニック・ディミニッシュの主な代理コードには VII7 がある。 このほか、II7 など、トニック・ディミニッシュと関係が深いコードもいくつかある。
トニック・ディミニッシュが関係する主なコード進行
トニック・ディミニッシュの多くはメジャー・キーで使われる。 メジャー・キーにおけるトニック・ディミニッシュが関係する主要なコード進行には次のようなものがある。
- Imaj7-Idim7-Imaj7
- Imaj7-Idim7-IIm7、Imaj7-♭IIIdim7-IIm7
- IIm7-♯IIdim7-IIIm7(I/III)
- II7-♯IIdim7-IIIm7(I/III)
- IIIm7(I/III)-♭IIIdim7-IIm7
- IIIm7(I/III)-♭IIIdim7-IIIm7(I/III)
- IVmaj7-♯IVdim7-I/V
- IVmaj7-♯IVdim7-V7
トニック・ディミニッシュの前後の和声的機能に注目すると、これらは次のように類型化できる(それぞれ代理コードも含む)。
- トニック・メジャーからトニック・メジャーへ---1. 5.
- トニック・メジャーからサブドミナント・メジャーへ---2. 6.
- サブドミナント・メジャーからトニック・メジャーへ---3. 7.
- サブドミナント・メジャーからドミナントへ---8.
- ダブルドミナントからトニックへ---4.
また、トニック・ディミニッシュは、同主調や平行調であっても共通である。 よって、トニック・ディミニッシュをピボットとした転調が行われることがある(例えば、Donna Lee(Miles Davis)の27--29小節目)。
トニック・ディミニッシュのスケール
転調しない場合、あるいは同主調または平行調のようなトニック・ディミニッシュを共有するキーに転調する場合、トニック・ディミニッシュに対応するスケールはほぼ例外なくディミニッシュ・スケールとなる。
また、メジャー・キーの場合、コードがトニック・ディミニッシュのときのメロディは、階名「ラ・シ・ド・レ」のいずれかであることが多い。 これは、メジャー・スケールとディミニッシュ・スケールの共通音が、階名「ファ」と「ラ・シ・ド・レ」であるからであろう。
トニック・ディミニッシュは、ドミナント・ペダル・ポイントで使われることがある(Idim7/V)。 このとき、ベース音はディミニッシュ・スケール上に存在しないが、トニック・ディミニッシュであることに変わりはないので、対応するスケールはルート(ベース音ではない)から始まるディミニッシュ・スケールである。
トニック・ディミニッシュの代理コード
トニック・ディミニッシュの代理コードとしてもっともよく知られているのは VII7 である。 トニック・ディミニッシュはトニック・メジャー代理の IIIm7 にしばしば進行するが、VII7 がトニック・ディミニッシュ代理として IIIm7に進行するとき、セカンダリ・ドミナントとみなすほうが自然である場合もあり、またピボットとなってほかのキーに転調しているケースもある。 この見極めは難しいけれども、その見極めや解釈がさほど重要ではない場合も少なくない。
なお VII7 がトニック・ディミニッシュの代理機能を持つとき、厳密にはこのコードがドミナント機能を持っているとはいえないので、トライトーン代理を想定することはできない。 このことが、VII7 がトニック・ディミニッシュ代理か、セカンダリ・ドミナントかを見極める手がかりのひとつになるだろう。
VII7 がトニック・ディミニッシュ代理のとき、対応するスケールは半音-全音ディミニッシュ・スケールである。 このスケールは、トニック・ディミニッシュに対応するディミニッシュ・スケールと共通している。
トニック・ディミニッシュ代理の VII7 はドミナント機能を持たないが、♯IVm7 や ♯IVm7(♭5) が関係コードとして先行することがある。 このとき、♯IVm7 に対応するスケールはドリアンである。 また、♯IVm7(♭5) に対応するスケールは、ロクリアンまたはロクリアン♯2であるが、後者のほうが好まれる傾向がある。 なぜなら、ロクリアン♯2のほうがトニック・ディミニッシュに対応するディミニッシュ・スケールと共通音がより多いからだと考えられる。
トニック・ディミニッシュを置き換える♭IIIm7-♭VI7
トニック・ディミニッシュ ♭IIIdim7 を ♭IIIm7 や ♭IIIm7-♭VI7 が置き換えることがあり、これはビバップ以降の重要なマナーのひとつといえる。
例えば、All The Things You Are(Jerome Kern)の32小節目は、♭IIIdim7で演奏されることも少なくないが、実際に録音を聴くと ♭IIIm7-♭VI7 で演奏される録音が非常に多い。
この部分のストレート・メロディは ♭IIIm7-♭VI7と衝突するにも関わらず、メロディをフェイクして(変更して)まで ♭IIIm7-♭VI7 を採用している録音もある(例えば ”Jazz At Massey Hall”、1953年)。
また、テーマでは ♭IIIdim7 を採用しつつも、ソロになると ♭IIIm7-♭VI7 に置き換えて演奏するケースもある。
このように、トニック・ディミニッシュ ♭IIIdim7 は、♭IIIm7 や ♭IIIm7-♭VI7 と非常に関連が深い。