「アボイド」の版間の差分
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ある[[コード]]に対応する[[スケール]] | ある[[コード]]に対応する[[スケール]]上の[[楽音|音]]のうち、[[メロディ]]や[[ソロ]]、あるいは[[ボイシング]]の[[内声]]の音として使用を避けるべきとされている音。 | ||
[[ボイシング]]の[[内声]]の音として使用を避けるべきとされている音。 | なお、「使用を避けるべき」とは、後述するように「絶対に使ってはいけない」ということではない。 | ||
どの音をアボイド見なすかということについては立場によって多少の見解の違いがある。 | |||
しかし、アボイドを想定する目的は共通している。 | |||
それは、意図しない[[短9度の禁則|短9度音程]]の混入を防ぐことである。 | |||
短9度音程は極めて[[不協和音程|不協和な音程]]であり、意図せずに使用することは避けるべきである。 | |||
ところが、演奏や作編曲の過程で思いがけずこの音程が生じてしまうことがある。 | |||
そのようなことが生じないようにするためのチェック方法が、アボイドという概念であろう。 | |||
私は、アボイドについて次のように整理している。 | |||
* 狭義のアボイド:メロディでもコンピングでも避けるべき音 | |||
* 広義のアボイド | |||
** メロディ次第ではコンピングで避けるべき音 | |||
** 特定のコード・トーンやテンションが指定されているときにソロで避けるべき音 | |||
** 特定のコード進行においてコンピングで避けるべき音 | |||
== メロディでもコンピングでも避けるべき狭義のアボイド == | |||
[[コード]]に対応する[[スケール]]上の[[楽音|音]]のうち、[[コード・トーン]]の[[音程|短2度]]([[半音]])上にあり、かつそのコードの[[テンション]]になりえない音は、[[メロディ]](以下、[[ソロ]]も含む)でも[[コンピング]]でも原則として使うことができない。 | |||
具体的には以下の音が相当する。 | |||
* [[メジャー・コード]]の完全4度(長3度のコード・トーンの短2度上) | |||
* [[マイナー・コード]]の短2度([[ルート]]の短2度上) | |||
* マイナー・コードの短6度(完全5度のコード・トーンの短2度上) | |||
* [[ドミナント・セブンス・コード]]の完全4度(長3度のコード・トーンの短2度上) | |||
* [[ハーフ・ディミニッシュ・コード]]の短2度([[ルート]]の短2度上) | |||
* [[ディミニッシュ・コード]]のそれぞれのコード・トーンの半音上の音 | |||
* コード・トーンの5度を増5度に変更したコード(メジャー・コード、マイナー・コード、ドミナント・セブンス・コード)の長6度(コード・トーンの増5度の半音上) | |||
== メロディ次第ではコンピングで避けるべき広義のアボイド == | |||
[[コード]]に対応する[[スケール]]上の音で、狭義のアボイド以外の音、すなわち[[コード・トーン]]または[[テンション]]のうち、[[メロディ]]に対して[[短9度の禁則|短9度または短2度音程を作る音は、コンピングに使うことができない]]。 | |||
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=== メロディ次第ではコンピングで避けるべきコード・トーン === | |||
たとえ[[コード・トーン]]であっても、[[メロディ]]の短2度または短9度下に該当する場合は[[コンピング]]の[[ボイシング]]に使うべきではない。 | |||
具体的には次の場合が相当する。 | |||
* [[メジャー・セブンス・コード]]において、メロディが[[ルート]]のとき、その短2度または短9度下にあたる長7度のコード・トーンは使うことができない。よって、長7度に代えて長6度の音を使う。よって、コードは[[シックスス・コード]]となる。 | |||
[[ | * [[マイナー・メジャー・セブンス・コード]]において、メロディがルートのとき、その短2度または短9度下にあたる長7度のコード・トーンは使うことができない。よって、長7度に代えて長6度の音を使う。よって、コードは[[マイナー・シックスス・コード]]となる。 | ||
* [[ドミナント・セブンス・コード]]において、メロディが短13度のコード・トーンのとき、その短2度または短9度下にあたる完全5度のコード・トーンは使うことができないので、オミット(コンピングから除外)する。 | |||
=== メロディ次第ではコンピングで避けるべきテンション === | |||
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たとえテンションであっても、メロディの短2度または短9度下に該当する場合は[[コンピング]]の[[ボイシング]]に使うべきではない。 | |||
具体的には次の場合が相当する。 | |||
* [[メジャー・コード]]において、[[メロディ]]が[[コード・トーン]]の完全5度のときの増11度の[[テンション]] | |||
* [[マイナー・コード]]において、メロディがコード・トーンの短3度のときの長9度のテンション | |||
* [[マイナー・セブンス・コード]]において、メロディがコード・トーンの短7度のときの長13度のテンション | |||
* [[ドミナント・セブンス・コード]]において、メロディがコード・トーンの長3度のときの増9度のテンション | |||
* ドミナント・セブンス・コードにおいて、メロディがコード・トーンの完全5度のときの増11度のテンション | |||
* ドミナント・セブンス・コードにおいて、メロディがコード・トーンの短7度のときの長13度のテンション | |||
* [[ハーフ・ディミニッシュ・コード]]において、メロディがコード・トーンの短3度のときの長9度のテンション | |||
* ハーフ・ディミニッシュ・コードにおいて、メロディがコード・トーンの減5度のときの完全11度のテンション | |||
* ハーフ・ディミニッシュ・コードにおいて、メロディがコード・トーンの短7度のときの長6度のテンション | |||
== 特定のコード・トーンやテンションが指定されているときにソロで避けるべき広義のアボイド == | |||
[[ソロ]](あるいは[[メロディ]]を[[作曲]]するとき)において、特定の[[コード・トーン]]、または、ある[[コード]]のサウンドに不可欠な[[テンション]]が指定されているとき、たとえコード・トーンであってもその[[短9度の禁則|短2度または短9度上]]に該当する[[楽音|音]]をソロのアクセントのある音などに使用すべきではない。 | |||
具体的には次の場合が考えられる。 | |||
* [[メジャー・コード]]において、増11度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの完全5度 | |||
* [[メジャー・セブンス・コード]]における[[ルート]] | |||
* [[マイナー・コード]]において、長9度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの短3度 | |||
* [[マイナー・メジャー・セブンス・コード]]におけるルート | |||
* [[ドミナント・セブンス・コード]]において、増9度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの長3度 | |||
* ドミナント・セブンス・コードにおいて、増11度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの完全5度 | |||
* ドミナント・セブンス・コードにおいて、長13度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの短7度 | |||
* [[ハーフ・ディミニッシュ・コード]]において、長9度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの短3度 | |||
* ハーフ・ディミニッシュ・コードにおいて、完全11度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの減5度 | |||
* ハーフ・ディミニッシュ・コードにおいて、長13度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの短7度 | |||
例えば、ソロで '''C7alt''' のときにコード・トーンの長3度の音がサウンドしないのは、コンピングに含まれる増9度の音と短9度音程を作るからである。'''C7alt''' の '''alt''' 表記をどのように解釈するかは人それぞれかもしれないが、私は増9度のテンションは必須だろうと考えているので、その場合、長3度のコード・トーンは、ソロイストにとっては狭義のアボイドだと捉えるべきだと考える。 | |||
== 特定のコードやコード進行においてコンピングで避けるべき広義のアボイド == | |||
広義の「[[トゥ・ファイブ]]」の「トゥ」、すなわち、[[ドミナント・セブンス・コード]]に先行し、そのドミナント・セブンス・コードの[[ルート]]の完全5度または[[半音]]上をルートとする[[マイナー・コード]]または[[ハーフ・ディミニッシュ・コード]]の長13度の[[テンション]]は、「広義のアボイド」とされていて、[[コンピング]]の[[ボイシング]]ではふつう使用を避ける。 | |||
ただし、[[メロディ]]や[[ソロ]]で使うことができるほか、コンピングであっても[[トップ・ノート]]で使うことができることがある。 | |||
同様に、[[4度の掛留和音]]における長3度の[[楽音|音]]や、コード・トーンの5度を増5度に変更した[[コード]]の完全5度の音も、その音が対応する[[スケール]]上に存在すれば、メロディやソロでも使うことができるほか、コンピングのトップ・ノートで使われることもある。 | |||
== アボイドが許容されるとき == | |||
アボイドとは、「使用してはいけない音」ではなく、「使用を避けるべき音」である。 | |||
[[メロディ]]や[[ソロ]]においては、[[アクセント]]のない音、すなわち、[[シンコペーション]]がなく、かつ相対的に[[弱拍]]にあればフレーズ中に問題なく使うことができる。 | |||
また、民族音楽のスケールに基づいたものや、特定の効果を狙ったものなど、何らかの意図や理由などがあれば積極的にアボイドを使う状況もあるだろう。 | |||
[[コンピング]]におけるアボイドは、原則として避けるべきである。特にコンピングで避けるべき広義のアボイドについてはメロディをきちんと把握したり、ソロイストのラインを予測したりして適切にコンピングをすることが求められる。 | |||
作曲家によっては意図的に広義のアボイドの音を使ってくることがある。 | |||
このようなとき、メロディのアボイドを回避する[[リハーモナイゼーション]]のテクニックがある。 | |||
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2025年10月21日 (火) 09:23時点における最新版
あるコードに対応するスケール上の音のうち、メロディやソロ、あるいはボイシングの内声の音として使用を避けるべきとされている音。 なお、「使用を避けるべき」とは、後述するように「絶対に使ってはいけない」ということではない。
どの音をアボイド見なすかということについては立場によって多少の見解の違いがある。 しかし、アボイドを想定する目的は共通している。 それは、意図しない短9度音程の混入を防ぐことである。
短9度音程は極めて不協和な音程であり、意図せずに使用することは避けるべきである。 ところが、演奏や作編曲の過程で思いがけずこの音程が生じてしまうことがある。 そのようなことが生じないようにするためのチェック方法が、アボイドという概念であろう。
私は、アボイドについて次のように整理している。
- 狭義のアボイド:メロディでもコンピングでも避けるべき音
- 広義のアボイド
- メロディ次第ではコンピングで避けるべき音
- 特定のコード・トーンやテンションが指定されているときにソロで避けるべき音
- 特定のコード進行においてコンピングで避けるべき音
メロディでもコンピングでも避けるべき狭義のアボイド
コードに対応するスケール上の音のうち、コード・トーンの短2度(半音)上にあり、かつそのコードのテンションになりえない音は、メロディ(以下、ソロも含む)でもコンピングでも原則として使うことができない。
具体的には以下の音が相当する。
- メジャー・コードの完全4度(長3度のコード・トーンの短2度上)
- マイナー・コードの短2度(ルートの短2度上)
- マイナー・コードの短6度(完全5度のコード・トーンの短2度上)
- ドミナント・セブンス・コードの完全4度(長3度のコード・トーンの短2度上)
- ハーフ・ディミニッシュ・コードの短2度(ルートの短2度上)
- ディミニッシュ・コードのそれぞれのコード・トーンの半音上の音
- コード・トーンの5度を増5度に変更したコード(メジャー・コード、マイナー・コード、ドミナント・セブンス・コード)の長6度(コード・トーンの増5度の半音上)
メロディ次第ではコンピングで避けるべき広義のアボイド
コードに対応するスケール上の音で、狭義のアボイド以外の音、すなわちコード・トーンまたはテンションのうち、メロディに対して短9度または短2度音程を作る音は、コンピングに使うことができない。
メロディ次第ではコンピングで避けるべきコード・トーン
たとえコード・トーンであっても、メロディの短2度または短9度下に該当する場合はコンピングのボイシングに使うべきではない。 具体的には次の場合が相当する。
- メジャー・セブンス・コードにおいて、メロディがルートのとき、その短2度または短9度下にあたる長7度のコード・トーンは使うことができない。よって、長7度に代えて長6度の音を使う。よって、コードはシックスス・コードとなる。
- マイナー・メジャー・セブンス・コードにおいて、メロディがルートのとき、その短2度または短9度下にあたる長7度のコード・トーンは使うことができない。よって、長7度に代えて長6度の音を使う。よって、コードはマイナー・シックスス・コードとなる。
- ドミナント・セブンス・コードにおいて、メロディが短13度のコード・トーンのとき、その短2度または短9度下にあたる完全5度のコード・トーンは使うことができないので、オミット(コンピングから除外)する。
メロディ次第ではコンピングで避けるべきテンション
たとえテンションであっても、メロディの短2度または短9度下に該当する場合はコンピングのボイシングに使うべきではない。 具体的には次の場合が相当する。
- メジャー・コードにおいて、メロディがコード・トーンの完全5度のときの増11度のテンション
- マイナー・コードにおいて、メロディがコード・トーンの短3度のときの長9度のテンション
- マイナー・セブンス・コードにおいて、メロディがコード・トーンの短7度のときの長13度のテンション
- ドミナント・セブンス・コードにおいて、メロディがコード・トーンの長3度のときの増9度のテンション
- ドミナント・セブンス・コードにおいて、メロディがコード・トーンの完全5度のときの増11度のテンション
- ドミナント・セブンス・コードにおいて、メロディがコード・トーンの短7度のときの長13度のテンション
- ハーフ・ディミニッシュ・コードにおいて、メロディがコード・トーンの短3度のときの長9度のテンション
- ハーフ・ディミニッシュ・コードにおいて、メロディがコード・トーンの減5度のときの完全11度のテンション
- ハーフ・ディミニッシュ・コードにおいて、メロディがコード・トーンの短7度のときの長6度のテンション
特定のコード・トーンやテンションが指定されているときにソロで避けるべき広義のアボイド
ソロ(あるいはメロディを作曲するとき)において、特定のコード・トーン、または、あるコードのサウンドに不可欠なテンションが指定されているとき、たとえコード・トーンであってもその短2度または短9度上に該当する音をソロのアクセントのある音などに使用すべきではない。 具体的には次の場合が考えられる。
- メジャー・コードにおいて、増11度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの完全5度
- メジャー・セブンス・コードにおけるルート
- マイナー・コードにおいて、長9度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの短3度
- マイナー・メジャー・セブンス・コードにおけるルート
- ドミナント・セブンス・コードにおいて、増9度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの長3度
- ドミナント・セブンス・コードにおいて、増11度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの完全5度
- ドミナント・セブンス・コードにおいて、長13度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの短7度
- ハーフ・ディミニッシュ・コードにおいて、長9度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの短3度
- ハーフ・ディミニッシュ・コードにおいて、完全11度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの減5度
- ハーフ・ディミニッシュ・コードにおいて、長13度のテンションが不可欠な状況におけるコード・トーンの短7度
例えば、ソロで C7alt のときにコード・トーンの長3度の音がサウンドしないのは、コンピングに含まれる増9度の音と短9度音程を作るからである。C7alt の alt 表記をどのように解釈するかは人それぞれかもしれないが、私は増9度のテンションは必須だろうと考えているので、その場合、長3度のコード・トーンは、ソロイストにとっては狭義のアボイドだと捉えるべきだと考える。
特定のコードやコード進行においてコンピングで避けるべき広義のアボイド
広義の「トゥ・ファイブ」の「トゥ」、すなわち、ドミナント・セブンス・コードに先行し、そのドミナント・セブンス・コードのルートの完全5度または半音上をルートとするマイナー・コードまたはハーフ・ディミニッシュ・コードの長13度のテンションは、「広義のアボイド」とされていて、コンピングのボイシングではふつう使用を避ける。 ただし、メロディやソロで使うことができるほか、コンピングであってもトップ・ノートで使うことができることがある。
同様に、4度の掛留和音における長3度の音や、コード・トーンの5度を増5度に変更したコードの完全5度の音も、その音が対応するスケール上に存在すれば、メロディやソロでも使うことができるほか、コンピングのトップ・ノートで使われることもある。
アボイドが許容されるとき
アボイドとは、「使用してはいけない音」ではなく、「使用を避けるべき音」である。
メロディやソロにおいては、アクセントのない音、すなわち、シンコペーションがなく、かつ相対的に弱拍にあればフレーズ中に問題なく使うことができる。 また、民族音楽のスケールに基づいたものや、特定の効果を狙ったものなど、何らかの意図や理由などがあれば積極的にアボイドを使う状況もあるだろう。
コンピングにおけるアボイドは、原則として避けるべきである。特にコンピングで避けるべき広義のアボイドについてはメロディをきちんと把握したり、ソロイストのラインを予測したりして適切にコンピングをすることが求められる。
作曲家によっては意図的に広義のアボイドの音を使ってくることがある。 このようなとき、メロディのアボイドを回避するリハーモナイゼーションのテクニックがある。