Imaj7(♯5)

提供:コード辞典
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ハーモニック・メジャー・スケールの1度のダイアトニック・コードである。

トニック・メジャー Imaj7の変形で、トニック・メジャーのクリシェのなかで使われる場合と、ドミナント V7 とトニック・メジャー I6 の中間的な和声的機能をもつコードとして使われることがある。 前者の場合、単に I(♯5) として表記されることもある。

対応するスケールとして、ハーモニック・メジャー・スケールの第1モードであるアイオニアン♭6のほか、アイオニアン♯5リディアン♯5をあげることができる。 なお、Imaj7(♯5) にアイオニアン♭6が対応するとき、コード・シンボルのなかで増5度のように表記されている音は厳密には異名同音的音程の減6度であるが、その場合でも慣用的に増5度として表記されることが多い。

トニック・メジャーのクリシェのなかで使われる Imaj7(♯5)

Imaj7(♯5) は、トニック・メジャークリシェのなかで使われる。 このとき、単に I(♯5) として表記されることが多いだろう。 対応するスケールを意識することはあまりないかもしれないが、アイオニアン♯5アイオニアン♭6が対応するものと思われる。 加えて、ソロではリディアン♯5も有力な候補になるだろう。

アイオニアン♭6が対応することについて不審に思う方もいらっしゃるかもしれない。 どの曲か失念したことが悔やまれるが、確かフランク・シナトラのなにかの曲のイントロでトニック・メジャーのクリシェのなかで、階名「ソ」の音がトップ・ノートでずっと演奏されていたものを聴いたことがあったように記憶している。 つまり、このコードにおいて階名「ソ」とコード・トーンの変化された増5度「ソ♯」が同時に鳴らされていたのである。

これを考えたときに、コード・トーンの「ソ♯」の実体は短6度の「ラ♭」であり、アイオニアン♭6を想定すれば説明が付くと気づいた。

クリシェのなかでソロをすることがあっても、スケール全体を意識することはそれほどないであろう。 アイオニアン♯5とアイオニアン♭6を厳密に区別しなくてはならない状況はほとんどない以上、たとえ厳密には短6度であったとしても異名同音的音程に拘泥して「♭6」や「♭13」と表記するよりも、慣例的に「♯5」と表記するほうがクリシェであることが明確に伝わるので適切だと個人的には考える。

ドミナントのサウンドを残したトニック・メジャー Imaj7(♯5)

Imaj7(♯5) は、トニック・メジャーでありながら、ドミナントのサウンドを残す効果のあるコードとして使われることがある。 この場合、III/I と表記されることがあるが、分母の IIIメジャー・コードではなくドミナント・セブンス・コードである。

直前のコードは、V7(♭9)IVm6/V など、階名「ラ♭」をテンションまたはコード・トーンに持ち、ルートまたはベース音が階名ソのコードである場合がほとんどであると思われる。

また、直後のコードは I6 であることが多い。

このような流れで、ドミナントのサウンドを残したトニック・メジャーとして使われるコードは、Imaj7(♯5) だけであるとは限らず、ほかに IVdim7/IIVm6/I もあるので注意が必要である。

一般に Imaj7(♯5) は、メロディが階名「ミ」のときに使われることが多い。

このとき、対応するスケールアイオニアン♯5であろう。 アイオニアン♯5は、平行調ハーモニック・マイナーの第5モードで、平行調のV7に対応するスケールである。

ドミナントのサウンドを残したトニック・メジャー Imaj7(♯5) は、多く場合 I6 に進行する。 この [[Imaj7(♯5)-I6|Imaj7(♯5)-I6 という進行は、III7(♭9)/I-IVm7/I、すなわち、ベーストニック・ペダル・ポイント上で、平行調の V7(♭9)-Im7(ドミナント、トニック・マイナー)という進行が生じていると理解することもできるだろう。

主な例は次の通り。

  • Sail Away(Tom Harrell)の29小節目(一時的に長3度上に転調している)