和声的機能

提供:コード辞典
2024年10月30日 (水) 16:27時点におけるNaoki Yoshioka (トーク | 投稿記録)による版
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楽曲中における一連のコード進行において、それぞれのコードの持つ和声的な役割や性質のことをいう。 文脈によっては単に「機能」ということがある。

西洋音楽におけるコード(和音)やボイス(声部)について体系化したものを和声(ハーモニー)という。 ジャズ和声(ジャズ・ハーモニー)は、クラシック音楽を中心とした従来の和声を基本としつつ、即興音楽というジャズの特性や要求にかなうよう独自に変化したものと考えることができる。

主要な3つのコード

ジャズに限らず、一般に西洋音楽のほとんどの楽曲には、トニックサブドミナントドミナントの3つの基本的なコードがよく使われるとされる。

本来、トニック、サブドミナント、ドミナントとは、それぞれスケール上にある1度、4度、5度のを指す「気取った言い方」に過ぎない。 したがって、本来、これらは、メジャー・スケールにおける階名「ド」「ファ」「ソ」、マイナー・スケールにおける階名「ラ」「レ」「ミ」の音を指しているにすぎないが、こんにちコードやコード進行を扱う文脈において、これらの用語を主にそれぞれの音をルートとするコードを指すときに使うことがほとんどである。

ちなみに、1度、4度、5度に限らず、キーに対応するメジャー・スケールマイナー・スケールのすべての音にそれぞれ固有の名前があるが、すべてを覚える必要はないだろう。 ただし、興味がある方のためにいちおうすべて記しておく。

名称(英語) 名称(日本語) 備考
1度 トニック 主音 メジャーまたはマイナー・スケールに対応するキートーナル・センター
2度 スーパートニック 上主音 メジャー・スケール、マイナー・スケールの長2度
3度 ミディアント 中音 上中音ともいう
4度 サブドミナント 下属音 メジャー・スケール、マイナー・スケールの完全4度
5度 ドミナント 属音 メジャー・スケール、マイナー・スケールの完全5度
6度 サブミディアント 下中音
7度 サブトニック 下主音 長7度にあたるときリーディング・トーン(導音)ともいう

大切なのは、キーに対応するメジャー・スケール、マイナー・スケールにおいて、トニック、サブドミナント、ドミナントが、トーナル・センターに対して常に完全1度、完全4度、完全5度に相当し、また四度圏五度圏)において隣り合っていることを理解することである。

メジャー・キーの主要な3つのコードであるトニック、サブドミナント、ドミナント は、Imaj7IVmaj7V7] である。 また、マイナー・キーにおけるトニック、サブドミナント、ドミナントは、ImIVm7V7 である。

ただし、ジャズ和声では、メジャー・キーとマイナー・キーのトニックやサブドミナントを区別するために、メジャー・コードの場合は トニック・メジャーサブドミナント・メジャー、マイナー・コードの場合にはトニック・マイナーサブドミナント・マイナーのようにいう。

つまり、それぞれ1度(4度)をルートとするメジャー・コード(あるいはマイナー・コード)という意味である。

例えば Imaj7 を口頭では「1度メジャー(・セブンス)」のようにいうけれども、この「1度」の部分をやや気取って「トニック」に置き換えて「トニック・メジャー」と言っていると考えればよいだろう。

また、メジャー・キー、マイナー・キーに関わらず、5度(すなわちドミナント)をルートとするコードは、V7 がもっともよく使われるから、口頭で単に「ドミナント」といったときにはこのコードを指す。「ドミナント・セブンス・コード」の名称も、5度を意味する「ドミナント」に由来する。

童謡や唱歌のような、比較的シンプルな楽曲の多くは、これら3つの主要なコードのみで演奏することができる曲が多い。 すなわち、そのようなシンプルな曲は、メジャー・キーの場合、トニック・メジャー Imaj7、サブドミナント・メジャー IVmaj7、ドミナント V7の3つ、また、マイナー・キーの場合には、トニック・マイナー Im、サブドミナント・マイナー IVm7V7 の3つのコードで演奏することができる。

このように3つのコードだけでシンプルになにかの曲を演奏する場合、次の6通りのコード進行の可能性がある。

  1. トニック→サブドミナント
  2. トニック→ドミナント
  3. サブドミナント→トニック
  4. サブドミナント→ドミナント
  5. ドミナント→トニック
  6. ドミナント→サブドミナント

ただし、曲中にこの6通りの進行がまんべんなくあらわれるわけではない。

実際に調べてみると「ドミナント→サブドミナント」という進行は、「ドミナント→トニック」に対して極めて例が少ないことがわかる。 したがって、ドミナントはトニックに進行しやすいという性質が明らかになる。 なお、トニックやサブドミナントが、それぞれ残り2つのコードに進行する例はそれなりに存在する。 以上をまとめると次のようになるだろう。

また、実際にさまざまな童謡や唱歌のようなシンプルな曲を調べてみると、大半の曲がトニックで始まること、ほとんどすべての曲がトニックで終わること、サブドミナントが一度も出てこない曲もあるがドミナントが一度も出てこない曲はほとんどないこと、一般的に曲全体に対してトニックの占める割合がほかの2つと比べて高いことなどがわかる。

音楽理論とは教科書で他人から与えられるものではない。 実際の録音や楽譜などの資料を参考にケース・スタディをして検証することでより深い理解が得られるものだと考えている(このことが当サイト設置の動機でもある)。

ぜひ自身で3つのコードで演奏できる童謡や唱歌の類をできるだけ多く収集し、コード進行にどのような傾向があるか、それぞれのコードが曲のどれだけの拍数を占めているかなどについて、自分で調べてみることをおすすめする。 これが、皆さんのジャズ研究の記念すべき第一歩となるものと確信する。

メジャー・キーにおける代表的なコードと和声的機能

ジャズ・スタンダードとして現在も演奏されている1920年以降に作曲されたアメリカのポピュラー・ソング、そして1940年代のビバップから今日のコンテンポラリー・ジャズに至るまでのさまざまなジャズ・オリジナルには、様々なコードが使われている。 そして、それぞれの楽曲を理解し演奏や作編曲といった表現に生かすためには、それぞれのコードのもつ和声的機能をアナライズ(分析)して、理解することが大切である。

はじめはジャズ和声が難しいと感じるかも知れない。 しかし、様々なコードが使われているジャズの楽曲であっても、童謡や唱歌と同様に、トニックサブドミナントドミナントが主要な3つのコードであることに代わりはなく、そこから、4つ目以降の主要なコードをひとつずつ覚えていけばよい。

ここでは、メジャー・キーにおける代表的な和声的機能について説明する。

上の図は、メジャー・キーにおける代表的なコードがどのように進行する傾向があるかについて示したものである。

また、上から下に行くほどトニック・メジャーに進行しようとする性質が強まると理解していただいてよい。 メジャー・キーの楽曲において、もっとも安定するコードがトニック・メジャーで始まり、もっとも不安定なドミナントを経て、安定したトニック・メジャーに進行するといった流れをつかむことをまずは目標にしていただきたい。

「不安定さ」とは、機械の「ぜんまい」に例えることができるだろう。 すなわち、ぜんまいを少し巻いた状態がサブドミナント・メジャー、それよりももっと巻いた状態がサブドミナント・マイナー、そして、ぜんまいを目一杯巻いた状態がドミナントである。 ぜんまいを強く巻けば巻くほど、トニック・メジャー(ぜんまいを巻く前の安定した状態)に勢いよく戻ろうとする。 すなわちトニック・メジャーに進行しようとする傾向が強くなるのである。

メジャー・キーの主要な3つのコード

メジャー・キーで使われる主要な3つのコードについて簡単に説明する。

トニック・メジャー Imaj7

トニック・メジャー Imaj7 は、メジャー・キーの楽曲全体を代表するコードであり、多くの曲はトニック・メジャーで始まり、ほぼすべての曲はトニック・メジャーで終わる。 また、楽曲の途中の主要な部分をトニック・メジャーが占める。

したがって、図の一番上と一番下にトニック・メジャーを配置している。

ジャズ和声を理解するとき、慣れるまではトニック・メジャー(マイナー・キーにおいてはトニック・マイナー)までの道筋を理解すると考えたらよいだろう。

また、トニック・メジャーは、あらゆるコードに進行できるという性質がある。 よって、上に配置したトニック・メジャーからは、すべての要素に対して矢印を引いてある。

サブドミナント・メジャー IVmaj7

すでに述べたように、サブドミナント・メジャー IVmaj7 は、ドミナントやトニック・メジャーに進行する。 なお、トニック・メジャーから進行するケースと比べて、ドミナントから進行する事例は圧倒的に少ないことから、ここでは、ドミナントからサブドミナント・メジャーへの矢印は省略した。

ドミナント V7

トニック・メジャーに進行する性質が強いドミナント V7 は、図の下から2段目に記した。 V7 からトニック・メジャーへの矢印はこの進行が起こりやすいことを示している。

ドミナントと「トゥ・ファイブ」

トゥ・ファイブ」あるいは「トゥ・ファイブ・ワン」は、もっとも知られたジャズのコード進行であろう。

メジャー・キーにおいて「ファイブ」と「ワン」は、それぞれドミナント V7 とトニック・メジャー Imaj7 である。 なお、「トゥ」とは一般に IIm7 であるが、IIm7(♭5)であることも 少なくない。 これについてはそれぞれの項目を参照のこと。

IIm7 は、サブドミナント・メジャー代理だと説明される場合もあり、一概に誤りというわけではない。 しかし、私は「トゥ・ファイブ」全体でドミナント機能を持つと解釈すべきだと考える。

いくつか理由をあげることができるがここでは2つを示すにとどめておく。

1つ目は、例えば童謡唱歌のようなシンプルな曲をジャズの演奏用にリハーモナイズするとき、もともと IVmaj7-V7 だったところを IIm7-V7 に置き換えるよりも、もともと V7だったところの前半を IIm7 に置き換えて「トゥ・ファイブ」とする場合が圧倒的に多いからである。

2つ目として、ダブル・ドミナント II7との関係からである。 後述するが、ダブル・ドミナントはドミナントに進行しようとする和声的機能を持つ。 このとき、II7-V7 という進行が想定されるが、実際には、II7-IIm7-V7 という進行も少なくない。 ここ IIm7 をサブドミナント・メジャーとみなすとダブル・ドミナント II7 の機能や進行先を見失うであろう。 ところが「IIm7-V7」全体をドミナントであると捉えることで、ダブル・ドミナント II7 が明確にドミナントに進行していると理解することができる。

この IIm7 のことを私は V7関係コードと呼んでいる。 V7 のように(広義の)ドミナント機能をもつドミナント・セブンス・コードは、そのルートの完全5度上をルートとするマイナー・セブンス・コードまたはハーフ・ディミニッシュ・コードが関係コードとして先行して、いわゆる(広義の)「トゥ・ファイブ」となることが多い。

ダブル・ドミナント II7 とその関係コード

ダブル・ドミナント II7 とは、ドミナントへのドミナントである。

ドミナント V7トニック・メジャー(マイナー・キーにおいてはトニック・マイナー)に進行するときのように、ドミナント・セブンス・コードには、完全5度下の音をルートとするさまざまなコードに進行しようとする和声的機能があり、これを(広義の)ドミナント機能という。

したがって、II7 はその完全5度下の音 V をルートとするコードに進行しようとするのだが、進行先が特に V7 であるとき、このII7をダブル・ドミナントという。

なお、ダブル・ドミナントは広義のドミナント機能を持つので、関係コード(VIm7 または VIm7(♭5))が先行することがある。 このとき、関係コードも含めてダブル・ドミナントとみなすことができる。

ダブル・ドミナントは、ドミナントに進行しようとする以外にもいくつかの性質があり、サブドミナント・マイナーやトニック・メジャーにも進行することがある。

IV へのセカンダリ・ドミナント I7 とその関係コード

ドミナント V7 やダブル・ドミナント II7は、完全5度下の音をルートとするコードに進行しようとするドミナント・セブンス・コードのドミナント機能を備えている。

このようなドミナント・セブンス・コードが持つドミナント機能を活用して、あるコードに円滑かつ明確に進行するために、その目的のコードの完全5度上のドミナント・セブンス・コードを先行させることがある。 このようなドミナント・セブンス・コードをセカンダリ・ドミナントという。

メジャー・キーにおいて、サブドミナント・メジャー IVmaj7 には I7 が先行する場合がある。 このとき、I7IV へのセカンダリ・ドミナントである。

また、セカンダリ・ドミナントはドミナント機能を持つため、そのルートの完全5度上をルートとするマイナー・セブンス・コードまたはハーフ・ディミニッシュ・コードが関係コードとして先行することがある。 IV へのセカンダリ・ドミナント I7 に対しては、Vm7 または Vm7(♭5) が関係コードとして先行することがある。

メジャー・キーにおけるサブドミナント・マイナー

サブドミナント・マイナーは、マイナー・キーにおける主要な3つのコードのひとつであるが、メジャー・キーにおいても使われることがある。

マイナー・キーにおけるサブドミナント・マイナーが IVm7 であるのに対し、メジャー・キーのサブドミナント・マイナーは、原則として IVmmaj7 または IVm6 である。

メジャー・キーにおけるサブドミナント・マイナーは、サブドミナント・メジャーとドミナントの中間的な和声的機能を持つ。

よって、このコードは、トニック・メジャーやサブドミナント・メジャーから進行することがあり、また、ドミナントやトニック・メジャーに進行しやすい。

また、前項で説明した IV へのセカンダリ・ドミナント I7 から進行しやすいようにも思われるかもしれないが、実際に調べてみるとメジャー・キーにおける I7 はサブドミナント・メジャー IVmaj7 に進行するものが大半であり、サブドミナント・マイナー IVmmaj7 に進行する例は少ない。

サブドミナント・マイナーは ♭VII7 に進行することが多い。 この ♭VII7 から見ると、サブドミナント・マイナー IVmmaj7 と広義の「トゥ・ファイブ」の関係になっているので、IVmmaj7♭VII7 の関係コードのように思われる方もいるだろう。

ところが、この ♭VII7 はサブドミナント・マイナーの代理コードである。 また、私は、♭VII7 のほうがサブドミナント・マイナー IVmmaj7 の関係コードだと考えている。

つまり、これまで見てきた IIm7-V7VIm7-II7Vm7-I7が、いずれもドミナント・セブンス・コードが「本家」として明確な和声的機能(それぞれ、ドミナント、ダブル・ドミナント、IV へのセカンダリ・ドミナント)を持っていて、先行するマイナー・セブンス・コードがそれらの「分家」として派生したと考えられるのに対し、IVmmaj7-♭VII7というコード進行では、マイナー・コード側が「本家」としてサブドミナント・マイナーという明確な和声的機能を持ち、後置されるドミナント・セブンス・コードが必ずしもドミナント機能を持たずに「分家」、すなわちサブドミナント・マイナーの代理コードとして機能しているに過ぎないということである。

この ♭VII7 は、一般にサブドミナント・マイナー代理といわれているけれども、私があえて「関係コード」という言葉を使う理由は、一見して「トゥ・ファイブ」にみえるマイナー・コードとそれに続くドミナント・セブンス・コードのペアのうち、どちらが「本家」にあたるのかを判断する習慣を確実に身につける必要があると考えるからである。

なお、メジャー・キーにおけるサブドミナント・マイナー IVmmaj7IVm6 とその代理コード♭VII7、それに IIm7(♭5)(これはサブドミナント・マイナー代理のほか、ドミナント V7 の関係コードの場合もある)は、そのキーのメロディック・メジャー・スケールに基づいている。

その他のコード

図に示した以外にも、メジャー・キーで使われるコードがいくつかあるので以下に示す。

IIm7
ドミナント V7 の関係コードのほか、サブドミナント・メジャー代理として使われることがある。
IIIm7
トニック・メジャー代理。
Idim7♭IIIdim7♯IVdim7VIdim7
トニック・ディミニッシュ(ただし VIdim7 はあまり見かけることはない)。
VII7
トニック・ディミニッシュ代理。しばしば関係コードとして ♯IVm7♯IVm7(♭5)が先行する。
VIm7
トニック・メジャー代理、あるいはサブドミナント・メジャー代理。また、平行調トニック・マイナーのこともある。
VI7
IIm7 へのセカンダリ・ドミナント。また、II7 に進行する場合は、エクステンデッド・ドミナントを形成する。いずれもしばしば関係コード IIIm7IIIm7(♭5)が先行する。
III7
VIm7へのセカンダリ・ドミナント(この場合、平行調のドミナントである場合もある)。あるいは、サブドミナント・メジャーへのセカンダリ・ドミナント I7 の代理コード。いずれもしばしば VIIm7VIIm7(♭5) が関係コードとして先行する。

マイナー・キーにおける代表的なコードと和声的機能

マイナー・キーで使われる代表的なコードと和声的機能について、以下の図に示す。

これは、メジャー・キーについて示した図から、サブドミナント・マイナーを省いた上で、トニック・メジャートニック・マイナーに、また、サブドミナント・メジャーをサブドミナント・マイナーに変えたものにほぼ等しい。

ただしいくつか注意点もある。

トニック・マイナーとその関係コード

マイナー・キーのトニック・マイナーとその代理コードは、原則としてそのキーナチュラル・マイナー・スケールまたはメロディック・マイナー・スケールにもとづく。 また、マイナー・スケールとしてのドリアンにもとづくこともある。 よって、コードは Im7Immaj7Im6 となることがある。 当サイトではこれらを一括して Im と記す。

また、トニック・マイナーの代理コード IV7Im7Immaj7 に後置されることがある。 このとき、広義の「トゥ・ファイブ」の形になるが、あくまでも「本家」は Im である。 よって、IV7は「分家」、すなわち Im関係コードである。

サブドミナント・マイナーとその関係コード

トニック・マイナーと同様、サブドミナント・マイナー IVm7 に、その代理コードである ♭VII7 が後置されることがある。 これは、メジャー・キーにおけるサブドミナント・マイナーと同じである。

このときも、IVm7 が「本家」、♭VII7 が「分家」、すなわち IVm7 の関係コードとなる。

なお、マイナー・キーのサブドミナント・マイナーとその代理コードは、そのキーのナチュラル・マイナー・スケールにもとづく。 したがって、マイナー・キーにおいては、サブドミナント・マイナーは原則として VIm7 となる。

ドミナント V7 とその関係コード

マイナー・キーにおけるドミナント V7 は、原則としてそのキーのハーモニック・マイナー・スケールにもとづく。 しかし、その関係コード IIm7(♭5) は原則としてナチュラル・マイナー・スケールにもとづく。

IIm7(♭5)-V7 はマイナー・キーでよく使われるコード進行であるため、これを、「マイナー・トゥ・ファイブ」と呼ぶことがある。

ただし、マイナー・キーであってもメロディなどの条件により、V7 の関係コードとして IIm7 が使われることもある。

平行調と和声的機能

ジャズで演奏されるマイナー・キーの曲のうち、一時的なものを含めてまったく転調のない曲はマイナー・ブルースと、ほんの数曲をかろうじて見つけられる程度であって、ほぼすべての曲が平行調に転調する。 また、一部が並行調に転調しているメジャー・キーの曲も少なくない。

加えて、Fly Me To The Moon(Bart Howard)、Lullaby of Birdland(George Shearing)、You'd Be So Nice To Come Home To(Cole Porter)など、トニック・マイナーで始まって、平行調のトニック・メジャーで終わる曲も数多くあげることができる。 このような曲は、一概にメジャー・キーあるいはマイナー・キーの曲であると断じることはできず、平行調関係にある2つのキーにまたがっていると理解できる。 したがって、キーを指定する際にメジャー・キーとマイナー・キーのどちらのキーで伝えても差し支えないだろう。

さて、このようにマイナー・キーを中心に多くの曲では平行調関係にある2つのキーが同居していることになる。 したがって、あるコードを解釈する上で、そのコードをどちらの文脈で読み解くべきかという判断力が問われるが、実際にはどちらの文脈でも読み取れることも多い。

このような代表的なコードを以下の表に示した。 実際には、これらのコードがピボットとして双方のキーにおいて機能していることも多い。

メジャー・キー 平行調であるマイナー・キー
IIm7ドミナント V7関係コードサブドミナント・メジャー代理 IVm7サブドミナント・マイナー
II7ダブル・ドミナント IV7トニック・マイナー代理。
III7VIへのセカンダリ・ドミナント V7:ドミナント。
IV7ブルージーサブドミナントIIIへのドミナント機能 VII7トライトーン代理 ♭VI7:ダブル・ドミナント II7 のトライトーン代理。
V7:ドミナント。 ♭VII7サブドミナント・マイナー代理。
VIm7:トニック・メジャー代理。サブドミナント・メジャー代理。 Im7:トニック・マイナー。
VI7II へのドミナント。 I7VIへのドミナント。
♭VII7:サブドミナント・マイナー代理。 ♭II7:ドミナント V7 のトライトーン代理。